2016年3月21日月曜日

ヒラリーのEメールに見られるリビアでのアジェンダ:金、権力、石油

以下は、2016年3月14日にグローバルリサーチに掲載された、エレン・ブラウンによる

Money, Power and Oil. Exposing the Libyan Agenda: A Closer Look at Hillary’s Emails


しかし、そのビクトリーランは時期尚早であった、とニューヨークタイムスのスコット・シェーンとジョー・ベッカーは書いた。「リビアが無秩序の中で分解し、この地域を不安定化する内戦に発展し、ヨーロッパの難民問題に油を注ぎ、イスラム国がこの国に聖域を打ち立てることを許し、米国は今や必死でこれを封じ込めようとしている中で」国務省はリビアを棚上げにしている。

米国とNATOの介入は、大規模な残虐行為が報告されたことで人道的見地から行われたとされているが、人権団体は証拠がないことを発見してから、その主張に疑問を唱えだした

今日、検証できる残虐行為が起こっている。ダン・コヴァリックはハフィントンポストで、<リビアでの人権状況は悲惨なもので、「数千もの(子供も含む)拘留者が適切な司法審査のないまま刑務所の中で朽ちており」、「誘拐と暗殺が激発している」>と書いている。

2011年以前、リビアは自国の水、国産の食料、石油、貨幣、そして国有銀行によって経済的独立を達成していた。カダフィの元で、最も貧しい国のひとつであったリビアはアフリカでもっとも裕福な国へと成長した。教育と医療は無料であり、家を持つことは人権とみなされ、リビア人は独自の地域民主制システムに参加していた。この国は,大人工河川計画という、世界で最も大規模な灌漑システムを誇っており、これは砂漠から水を都市と海岸部に引くというものだ。カッダフィはこの様式をアフリカじゅうに広めるプログラムに着手し始めていた。

しかしこれは、米国とNATO軍がこの灌漑システムを爆撃し、この国を完全に荒廃させる前のことだ。現在状況があまりに劣悪なので、オバマ大統領は顧問にリビアでの新たな軍事戦線を含む選択肢を策定するよう求め、国防省は「要請された全範囲の軍事作戦」に出れるよう待機していると報告されている。

もしも、これが公式に掲げられた人道的介入という目的だというのならば、確かに国務長官のビクトリーランは時期尚早といえるだろう。しかし、彼女の新たに公表されたEメイルはリビア戦争の裏の別の課題を明らかにしており、この点については、目的が達成されたようだ。

任務完了?

2015年12月の終わりに公表されたヒラリー・クリントンの私用Eメールサーバーからの3000のEメイルのうち、三分の一ほどは彼女の腹心であるシドニー・ブルーメンタールからのものだ。彼はモニカ・ルインスキーの件で彼女の夫を弁護した弁護士である。それらのEメイルのひとつで2011年4月2日付けのものの一部には次のようにある。

カダフィの政府は143トンの金を保有しており、銀もそれと同じくらいの量である...この金は、現在の反乱以前に蓄積されたもので、リビアの金のディナールに基づく汎アフリカ通貨の創設のために使われる予定であった。この計画はフランス語使用のアフリカの国々に、フランスのフラン(CFA)以外の選択肢を与えるものだった。

機密解除になった元のEメールの「発信源コメント」の中には次のように加えられている。

情報通の人々によれば、これだけの量の金と銀は70億ドル以上の価値がある。フランス諜報員らは、この計画を現在の反乱が始まった直後に発見し、これがニコラ・サルコジ大統領のリビア攻撃に関与するという決断に影響した要因のひとつだった。これらの人々によれば、サルコジの計画は以下の課題に突き動かされていた。
    1. リビアの石油生産により大きなシェアを得たいという欲求。
    2. 北アフリカでのフランスの影響を増大させる。
    3. 彼のフランス国内での政治状況を向上させる。
    4. フランス軍に世界での地位を再主張する機会を与える。
    5. カダフィの、フランス語使用アフリカでのフランスの覇権に取って代わる長期的な計画に対して、彼の顧問が憂慮していることに対処する。
       
人道的な関心についてはなにも触れられていないことがはっきりしている。目的はお金、権力、そして石油だ。

これ以外にも、 新たに公表されたEメールの物議をかもす内容は調査ジャーナリストのロバート・ペイリーによって詳しく述べられている。それらには、反政府勢力による戦争犯罪、抗議活動が始まったころには特殊作戦の訓練者がリビア国内にいたこと、そして米国に支援された反対勢力にアルカイダが組み込まれていたこと、などが承認されている。暴力的な介入のための主要なプロパガンダの題目が、単なる噂でしかないことも認められている。ペイリーは、これらがブルーメンタール自身によって発信されているのではと書いている。それらの中には、カダフィがバイアグラを彼の兵士たちに配布する「強姦政策」を採ったという奇妙な申し立ても含まれる。この非難は後に国連大使のスーザン・ライスが国連での発表で取り上げた。パイリーは言葉巧みに、次のように質問した。

では、オバマ政権がリビアの「体制変革」にアメリカの人々の支持を取り付けるためには、フランスがどれだけリビアの富を盗むことを欲し、アフリカでのフランスの新植民地的影響力を維持したいかを説明するより、カダフィがバイアグラを彼らの兵士たちに渡して、より多くの女性を犯せるようにし、その間狙撃者らが罪のない子供たちを標的にしているというプロパガンダのほうが、アメリカ人はよりよい反応を示すと思いますか?その通り!

世界金融体制をひっくりかえす


カダフィの、独立したアフリカの貨幣を設立するという脅威の試みは、欧米の勢力から軽くは受け止められなかった。2011年にサルコジはリビアの指導者を、世界の金融安全保障に対する脅威と呼んだ、と伝えられている。どうやったらこの人口六百万人の小さな国がそのような脅威になりえるのか?まずは背景をすこし述べる。

イングランド銀行が最近認めたように、欧米の経済では政府ではなく、銀行がほとんどの貨幣を作る。これは、「部分準備」貸しという過程を通して数世紀にもわたって行われてきたことだ。もともとは、準備金は金であった。1933年にフランクリン・ルーズベルトが国内では金を中央銀行が作った準備金に換えたが、国際的には金が準備通貨であり続けた。

1944年に、ニューハンプシャーのブレトンウッズで、このように銀行によって作られる貨幣システムを世界的に統一するために国際通貨基金(IMF)と世界銀行が設立された。国際通貨基金の決定では、どの紙幣も金の裏付けをされることはないとある。利子つきの負債として個別に作られた通貨供給量は、負債者の継続した供給を必要とする。そして、以来50年間の間に、殆どの開発途上国は国際通貨基金(IMF)に負債を負うこととなった。この融資は緊縮経済政策と公資産の民営化を伴う「構造調整」政策を含む条件付である。

1944年以降、米ドルは金準備通貨として金と互換性を持つようになった。米国がドルへの金の裏づけが保てなくなった1970年代に、OPECとドルを石油で「裏付ける」という取引をし、「石油ドル」を作り出した。石油はドルのみで売られ、ウォール街と他の国際銀行に入金されることとなった。

2001年に、OPECがその石油に対して得ているドルの価値が縮小していることに不満を持ったイラクのサダム・フセインは、この協定を破ってユーロで石油を売った。この国の政権変革と、広範囲な破壊が直ちに行われた。

リビアでは、カダフィも協定を破った。それも、石油を単に他の通貨で売る以上のことをしたのだ。これらの展開については、ブロガーのデニス・ラインが詳しく述べている
何十年もの間、アフリカの国々は、汎アフリカの金本位制をつくることを試みてきた。リビアのアル=カダフィと他のアフリカの国々の元首は独立した、汎アフリカの「硬貨」を欲していた。
アル=カダフィの指導の下、アフリカの国々は通貨の統一に関する会議を少なくとも2回開いている。これらの国々は、リビアのディナールと銀ディルハムをアフリカの石油を買うための唯一可能な通貨として使う可能性について協議した。
近年の米国とNATOの侵略までは、金ディナールはリビア中央銀行(CBL)で発行されていた。このリビアの銀行は100%国営で独立していた。外国人はリビアでビジネスをするにはCBLを通さなくてはいけなかった。リビア中央銀行は、ディナールを自国の143.8トンの金を使って発行した。
リビアのカダフィ(アフリカ・ユニオン、2009年 議長)はアフリカの主権国家の国々をひとつの金通貨で統一する(アフリカ合衆国)計画を考え出し、その資金を出した。2004年には、汎アフリカ議会(53カ国)が、単一の金通貨を2023年までに使うアフリカ経済共同体の計画を立てた。
アフリカの石油生産国は石油ドルを放棄して、石油とガスの支払いを金で要求する計画を立てていた。

何が可能かを示した

カダフィがしたことはアフリカの通貨クーデターを組織する以上のものだった。彼は金融上の独立が達成できることを示した。彼の最も大きな基幹施設プロジェクトである大人工河川は不毛な土地をリビアの穀倉地帯に変えていた。そしてこの330億ドルプロジェクトはリビアの国有銀行から、外国からの負債を負うことなく、利子なしで資金が供給された。

このことが、2011年に、この必要不可欠な基幹施設が破壊された理由を示している。NATOはそのパイプラインを爆破しただけでなく、それを修理するために必要なパイプを製造する工場も爆破することで、このプロジェクトを終わりにした。人口の70%に供給していた市民の灌漑施設を損なうことは、どうみても人道的介入とはいえない。むしろ、カナダのマキシミリアン・フォルテ教授が、多大な研究によって書いた本、シルテに向かって忍び寄る:NATOのリビアとアフリカへの戦争にあるように、

米国の軍事介入の目的は、アフリカのより大きな自立をもたらす、アフリカ内で現れ始めた独立パターンと協調ネットワークを妨害することだ。これは、欧州大陸外の勢力、つまり、米国の戦略地政学と政治経済的野望とは相容れない。

なぞは解けた

ヒラリークリントンのEメールは、初期にテレビ解説者によって取り上げられた、もうひとつのなぞについて光を当てた。なぜ、戦いを始めた数週間以内に、反乱軍は自分らの中央銀行を設置したのか?2011年に、ロバート・ウェンツェルがエコノミック・ポリシー・ジャーナルに書いている。

このことは、反乱グループの寄せ集めが走り回っているだけでなく、非常に洗練された影響力が存在するということだ。人民蜂起がたった数週間で中央銀行の設置にいたるというのは今までに聞いたことがない。

それは、疑わしいことだらけだが、アレックス・ニューマンが2011年の記事で結論しているように、

中央銀行と腐敗した世界金融システムを救うことがガダフィ打倒の真の理由のひとつであったかは...確実にわかることは決してないであろう、少なくとも公には。


この事件は、数多くの詐欺や汚職が立証されることがないのと同様に疑わしいままであろう。しかし、ヒラリー・クリントンのEメールがFBIの調査後に公表されることは、ニューマンの疑惑、つまり、暴力的な介入は人民の安全に主眼があったのではなく、世界の銀行業界、お金、そして石油の安全にあったということに大きな説得力を持たせるであろう。


この文の原文は最初に The Web of Debt Blogに掲載された。

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