2012年6月8日金曜日

トニー・バッキンガム:傭兵から石油王へ

以下は2009年11月27日 マネーウイーク紙に掲載された文章の訳です。

Tony Buckingham: murky past of a mercenary turned oil baron
http://www.moneyweek.com/news-and-charts/profile-of-tony-buckingham-of-heritage-oil-46336

傭兵から石油大富豪となったトニー・バッキンガムの闇に覆われた過去

2004年の赤道ギニア「ウォンガ・クーデター」で失態を演じ、挙げられていたサイモン・マンが英国に帰還したことは彼の共謀者と目されている面々を狼狽させた、とデイリー・テレグラフ紙はいう。

しかし、マーク ”スクラッチャー” サッチャー(註:マーガレット・サッチャー前首相の息子)や他の者らがドアをノックされるのをびくびくしながら待っているのに対して、マンのもう一人の仲間は豪勢にシャンペンでお祝い中だ。トニー・バッキンガム、もと SAS(英国陸軍特殊空挺部隊)員で傭兵となり、転じて石油大富豪となった男である。彼のヘリテージ石油会社のウガンダ資産売却によって9千5百万ポンドの儲けを見込んでいる。 これはとてつもない額だ。

58歳のバッキンガムは己のドラマに満ちた過去を人々の関心から遠ざけようとしており、軍事や警備活動には1998以降関わっておらず、サイモン・マンとも2000年以降は「どのような形での」接触もないと主張する。

ヘリテージ社の広報でも彼の軍事暦については、「いくつかの国々で安全保障アドバイザーをした」ということが控えめに述べられるにすぎない。しかし、このような当たり障りの無い言葉にだまされてはいけない、とサンデー・タイムス紙はいう。バッキンガムの非公式履歴書はまるで1990代の傭兵人名録そのものであり、彼が「戦争で引き裂かれたアフリカの国々との武器と戦闘員売買の中心人物」であったことがわかる。

バッキンガムはエグゼクテイブ・アウトカムズ(Executive Outcomes - EO)の共同設立者であり。EOは(主に南アの)特殊精鋭部隊員からなり、マンはその主要メンバーであった。また、マンはテイム・スぺイサー大佐が運営する傭兵グループ、サンドライン・インターナショナル(Sandline International )の指導的地位にもあった。サンドラインのシエラレオーネでの活動は、その武器売買に英国外務機関が関わっていたことが露呈し、選出されたばかりのブレア政府が掲げていた「倫理的」外交政策がまがい物であることを示す結果となった。

このスキャンダルはロンドンのキングスロード535番地にエグゼクテイブ・アウトカムとサンドラインが同居している事務所とそこに繋がるオフショア会社や仲買人らの怪しげな世界を浮き彫りにした。「エグゼクテイブ・アウトカムの傭兵たちはただの’雇われ兵’ではない」、とオブザーバー紙は1997に指摘した。「彼らは現代版アフリカ鉱物資源(石油、金そしてダイヤモンド鉱山開発を含む)争奪に従事する大企業利権とオフショア金融管理業者の前衛部隊なのである」。

インデペンデント紙の記者は1998にバッキンガムのヨットに同乗したときの印象を「気さくでにこやかな”コーウェスの水上スポーツセット”が良く似合う好感の持てる人物」と述べている。しかしまた同紙は彼の過去が謎に満ちており、「英国籍で1951年11月28日生まれとされているが、公の記録にはこの日の彼の出生証明書は存在しない」とも述べている。

彼の石油業界への関心に火がついたのは1970年代に北海でダイバーの任務についていたときとだとされる。1990年代の初期にヘリテージ石油を設立する以前はレンジャー石油とプレミアム石油両社の採掘権交渉人をしていた。しかしアフリカでの彼の利権は石油だけにとどまらない。彼はカナダの上掲会社ダイアモンドワークスの子会社でアンゴラとシエラ・レオーネにダイヤモンド採掘権を持つブランチエナジーも経営している。

バッキンガムはサンデータイムス紙によると、きわどい人脈は断ち切ったと張している。しかしロゴ・ロジステイックというマンが傭兵を雇い入れ、軍装備品や銃弾を供給する会社のビジネス住所はバッキンガムの会社と関係のある他の2社と同じである。これは’「不幸な」偶然というわけだ。

軍隊を意のままに操る業界の大物

トニー・バッキンガムは傭兵・鉱業の二股キャリアがその最高峰にあった1990年代後半に、もう一人のアフリカ争奪ビジネスの大物タイニー・ローランドの後継者になるであろうと見られていた。インデペンデント紙は「彼のミドルネームまでがローランドなのだから」と述べている。

バッキンガムは「強硬派ビジネスマン」であり、「小規模の私設軍隊を電話2、3本で召集することができる。そしてその軍隊を使って”すばらしい富を築く”のだった。しかしそれはもう過去の話で、ヘリテージの財政担当取締役が最近サン紙に語ったことによれば、「トニーとヘリテージは油田発見にれっきとした実績があるということで、それ以外のことは重要ではない」。

この点は彼への投資家たちも同意見であろう。ウガンダのアルバート湖地帯はヘリテージとそのライバル会社であるトウーロー石油にとって大成功をもたらした。ではなぜヘリテージはイタリアの大石油会社エニにウガンダの採掘地を売却するのであろうか。それは主に石油の輸送費が膨大であることだとサンデーテレグラフ紙は伝えている。だがそれ以上にヘリテージがこの13.5億ドルの取引額のほとんどをバッキンガムの最新のお気に入りであるクルデイスタンの資産を買い取るためにつぎ込む計画だということだ。

しかしこのエニとの取引はロンドン株価FT250のヘリテージをFT100銘柄にするというバッキンガムの野望を損なうものだ。今年の初期に彼はトルコのジェネル・エナジーを逆買収する計画を発表した。これが実現していれば60億ドルの巨大企業となったのだが計画は中止された。

ヘリテージ自体が売却される可能性をがあると見る者もある。ただ、何が起ころうとバッキンガムは常に勝ち組なのだ、とイブニング・スタンダード紙はいう。ヘリテージが売却された場合には会社の三分の一の出資額を確保しておくだけでなく、三年分の俸給が支払われることになっている。昨年彼に支払われた額が100万ポンド以上であったことを考えれば、この数字はかなりの額となろう。