2015年11月12日木曜日

なぜロシアはテロとの戦いに本気だが、米国は本気でないのか

以下は2015年10月20日にニューイースターンアウトルックに掲載された Maram Susli (別名シリアンガール) による Why Russia is Serious About Fighting Terrorism and the US Isn’t を訳したものです。(アクセス10月27日)





ロシアはテロリズムと戦い始めた数日のうちに、米国同盟が数年かけたよりも多くを成し遂げた。ニューヨークタイムスによれば、ロシアの戦闘機は普通一日で、米主導同盟が今年に入ってイラクとシリアの両方で毎月一ヶ月で行うのと同じ量の攻撃を行っている。

米国はISISに対する爆撃を一年以上行っているが、ISISはシリアでむしろその勢力を増し、領地も増やしている。数ヶ月前ISISはユネスコ世界遺産である古代の町パルミラを占領した。


米国政府は地上軍なしにはISISを淘汰することができないことを認めているにもかかわらずシリア軍と協力することを拒否している。シリア軍は国連が認めた唯一の正当(合法的)な地上軍であり、ISISと戦う能力と意思を持った唯一の軍隊である。それとは逆にロシアはシリアの地上軍と連携し、シリア部隊がテロと戦う支援をしている。

米国が公言しているテロリズムと戦うという目的と、その目的が達成されていないという事実は、シリアについて米国が本当の意図を正直に示していないことを意味する。米国は世界で最も強力で技術的に高度な軍隊を持つことから、これ以上のことをする能力がある。つまり彼らが意図的にシリアでの対テロ戦で勝たないようにしていると結論付けることができる。この理由についてはさらに追求されるべきだ。

ISISは米の地政学的利益にとってプラスだが、ロシアの利益は脅かす

シリアでの米の主要な目的は「ISISと戦う」という公言されたものではないことが明らかになってきた。彼らの目的は政権交代、ロシアの影響を孤立させる、シリアとイラクをバルカン化して破綻国家を作り出すことだ。米大統領候補で元国務長官のヒラリー・クリントン自身が最近述べたように、「アサドを除去することが最優先事項だ」。ISISとその他のテロリストグループの存在はこの方針に寄与する。

米国はシリア国家を、元ソビエト連合の国境外でロシアの勢力圏である最後の国々のひとつであり、この地域での米の同盟国イスラエルへの脅威と見ている。米はロシアに友好的な国を転覆させるためにテロリズムを用いてきた歴史がある。アルカイダ自体もソビエトに友好的なアフガニスタン政府を転覆する目的から生まれた。ロシアに友好的なセルビアの分割とコソボの創設も同じ手法でなされた。

より最近では、ISISは米のイラク戦の直接の結果であり、リビアとシリアでの米による公の政権交代支援により、この二国のみで定着した。リビアとイラクはシリアほどロシアとの関係が強かったわけではないが、この二国にとってロシアはまだ主要な武器供給国であった。だから、ロシアがシリア戦に参加した数日のうちに米国と繋がっているサウジの聖職者とムスリム同砲団がロシアに対して「聖戦」を宣言したのは驚くに値しない。

元国防情報局長マイケル・フリンはインタビューで、米はシリアでのISISの増長を許す意図的な決断を下したと述べた。2012年の国防情報局の機密解除になった報告書では、もし米とその同盟国らが過激派反政府威力に武器を支給することでシリアを不安定化し続ければ「シリア東部で宣言された、または宣言なしにサラフィストの領土が打ち立てられ...これこそがシリア政府を孤立させるために、反対勢力を支援している国々が望んでいることだ。」と予測している。

CIAは数千名の「反乱兵」を訓練したが、彼らはISISと戦うために訓練されたのではなく、アサド政府とシリア国軍と戦うためにである。ワシントンポスト紙は、「...CIAは2013年より1万人ほどの反乱勢力をアサドの軍隊と戦うために訓練した。これらの集団はアサドの宗派であるアラウィ派の拠点に顕著な進撃を遂げた。」と報告している。これは、米のシリアでの底意が政権交代であり、そのためにはテロリスト集団を発生させる用意があることを示している。

ロシアは実際にテロリズムと戦うことでより多くを得る

それと比べて、ロシアはテロリズムからシリア国家を守ることに明確な地政学的利益がある。シリアは数十年間ロシアの同盟国であり、ロシアの地中海での唯一の海軍基地がある。ロシアの外務大臣ラブロフは、ロシアがシリアに介入するのはこの国が「もうひとつのリビア・シナリオ」となることを防ぐためだと述べた。言い換えれば、米がリビアにしたように、シリアが破綻国家になることを防ぐということだ。

さらにいえば、ロシアがテロリズムと戦うことは自国の安全保障に直接繋がっている。ロシアは自国の国境内、特にチェチェンで過去にテロリズム問題を抱えていた。シリアでISISに参加したチェチェン戦闘員が今やモスクワ政府に戦闘を仕掛ける恐れがある。シリアのアルカイダ一派であるヌスラ戦線もまた、ロシアへのテロ攻撃を呼びかけている。60ミニッツでのインタビューでロシア大統領ウラジミール・プーチンは、シリアでテロリストと戦ったほうがロシアに戻ってくるまで待つより良いと語った。

テロリズムはロシアの国家安全にとって、米国にとってよりも、より大きなリスクをもたらす。距離的に近いというだけでなく、ロシア内のテロリストは国家の一部を分断し、ロシアの街々を丸ごと制圧する潜在的な力がある。このような恐れは米にはない。米にとって国家安全への唯一のリスクは、爆弾で一般市民が死亡するということで、これは米政府が本当の「問題」とはみなさないであろう。むしろ、このようなリスクは好機にすらなる可能性があると見られている。

米はISISを封じ込めることのみを求めている

NATOに所有されたメディアの派手な宣伝を無視して、米の政策立案者の発言に耳を傾ければ、米の目的はISISを打ち負かすことではなく、シリアとイラクの国境内に恒久的に封じ込めることであることがわかるであろう。このことは、現、米政府の一員で、民主党代表のアダム・スミスも認めている。彼はCNNで、

「...我々がISISを封じ込めるのを助ける、シリア内で協力できるパートナーを見つける必要がある。だから、最良の作戦を考え出すのは難しい課題だ。かれらはシリアの各地に安全な隠れ場所を持っているが、これらがISIS封じ込め作戦の一部となることに賛成だ。」と述べた。
米議会、諜報委員会代表の議長、デヴィン・ヌーンズは、CBSニュースに、「我々はISISをイラクとシリアの領土内に封じ込めていると思う。それ以外のことはあまりしていない。」と述べた。

米大統領のバラク・オバマ自身も、彼は「...ISISの影響の及ぶ範囲と、その効果、その資金、その軍事能力が、管理ができる問題となるまで減少し続けること」を望む、と述べた
これは、オバマ大統領がISISの影響範囲を、治療はしても完治することのない病気のように、管理できる領域に封じ込めておくことを望んでいることを意味する。オバマは多分この政策をブルッキング・インステイチュートのアドバイスによって採用したのであろう。このシンクタンクは、

「ISISを打ち負かすべきか?打ち負かすより、破綻国家または破綻寸前の国家の中で彼らの活動を封じ込めておくのが、しばらくの間、最も良い選択肢である。」と述べている

米はISISを実際に爆撃してはいない

米のISISへの爆撃はほとんど形だけのもので、認識管理として行っている。米軍は定期的に特定の標的を爆破したと発表するが、その爆撃の証拠ビデオが掲載されることは殆どない。それと比べ、ロシア軍は定期的に殆どの爆撃のビデオをロシア・トゥデイに載せている。米軍の発表を額面どおり受け入れる理由はない。事実を見れば、米はたとえ、機会があったときですらISISを爆撃することを拒否していることがわかる。漏洩した書類によれば、米は戦闘パイロットがISISの訓練キャンプの長いリストを攻撃対象とすることを禁じた。これらのキャンプからは月に数千の戦闘員が輩出されている。

受賞暦のあるジャーナリストのロバート・フィスクは、オーストラリアの番組レイトラインで、米はパルミラを占拠するために搬送されているISISの戦闘員を爆撃することができたが、その代わりに彼らがシリアの軍事拠点と、この、現在彼らが破壊を始めた古代都市を占拠するにまかせた。同じように、米はシリアの北ハマ地方で、ISISとアルカイダを標的として爆破することを殆ど避けていた。シリア軍がこの地方で優位になることを防ぐためである。ロシアはいまや、米からなんのお咎めも受けずにいたものたちを標的として爆撃している。米は、ISISが運営する地域に爆弾を落としたときには、これをシリアの石油施設を破壊する機会として利用した。
米は対アルカイダ戦争を「忘れて」、今やこれを保護している 

シリアの対テロ戦にロシアが参加したことで、最も皮肉な展開は多分、米政府とそのメデイアがロシアのアルカイダ(ヌスラ戦線)標的爆撃に激怒したことだ。元、国家安全保障問題担当顧問ズビグネフ・ブレジンスキーは、アルカイダの創出に多くの責任を負う人物だが、ロシアがISISだけでなくアルカイダも標的にしていることに対して、ツイッターで苛立ちを表した。NATOよりのメディアは米の対アルカイダ戦争を忘れ去り、昨年はシリアでのアルカイダの存在についていっさい触れず、ISISのみに焦点を当てることを選んだ。

2015年時点で、グーグルニュース・エンジンで、ISISは2億1千9百万ヒットしたが、アルカイダは3百万ヒットのみであった。この潮流に合わせて、NATOよりメディアは、ロシアがアルカイダを爆撃していることに光を当てることを避けた。この事実を暴露することは、米が反乱勢力と共に戦っていたときに、アルカイダに対して何もしてこなかったことを浮き彫りにする。

CNNの記事ではロシアがISISではなく、「シリア反政府勢力」を標的にしていることを糾弾していたが、掲示された戦争研究学会からの2枚の地図は多くを語っている。一つ目は、ヌスラ戦線が単独で、またはヌスラの同盟で、米の支援を受けている、いわゆる穏健派反乱勢力と合同で支配下に置いているシリアの地域が示されている。しかし、次の地図でロシアが攻撃している場所を示したものでは、ヌスラ戦線の占領地は殆ど見えず、共同で支配している地域に関しては完全に削除されていた。ヌスラが支配している地域は、ロシアの高度に集中した爆撃で妨害され、このことはロシアがこのテロリスト集団を撲滅させる意志があることを示しているにもかかわらず。

この2枚目の地図が、アルカイダが共同で占拠している地域を示しもせず、アルカイダの存在をはっきりと示していないのは、ロシアの対アルカイダ戦を特に取り上げないようにしていることを意味する。 なぜそうするのかといえば、米がCIAの支援する反乱軍のかなりを占めるアルカイダに対し、米がロシアと比較して、何もしてこなかったことを伏せておくためだ。これはまた、ロシアはいわゆる「穏健派反乱軍」のみを標的にしているというNATOの主張にも合致する。米はロシアが、米と繋がっているアルカイダを攻撃したことに憤慨し、それをやめさせるために、ロシアは「良い側の人間」を爆撃しているという図式を描こうとしているのだ。

米はテロリストに資金と武器を供給し続けている

この地図はさらに、米に支援された「穏健派反乱軍」がアルカイダと共同で活動している、というすでに広く知れ渡っている事実を描き出している。元米シリア大使のロバート・フォードもマックラッチーニュースで、これらの反乱勢力がアルカイダを支援していたことを認めた。近頃、いわゆる「自由シリア軍」の16分隊の「穏健派反乱軍」が、ヌスラによる、アレッポのクルド人の町、シェイク・マクスードのへ攻撃に参加した。
米政府から「穏健派」のラベルを貼られた反政府グループの司令官らは、過去、ISISと共に戦いすらしたし、彼らがISISを支援していることを衛星放送ニュースのインタビューで繰り返し述べている。NATOよりのメディアは、これらの反乱勢力を「比較的穏健な」と呼ぶほどまでになった。アルカイダとISISと比較して、という意味だ。どちらにしろ、「穏健な」というのは非宗教的(Secular)という言葉とは違い、常に相対的な言葉である。そして、NATO運営メディアは、これらの反乱勢力を「非宗教的」と形容することはいくらなんでもしない。先週米国は、反乱勢力をISISと戦うために訓練をするという国防省のプログラムを打ち切った。というのも、5人を除く全員が、与えられた訓練と武器と共にアルカイダに寝返ってしまったからだ。

米国が過去に行った、「審査された反乱軍」に武器を供給する試みは、TOW対戦車ミサイルがアルカイダの手に落ちるという結果に終わった。しかし、「穏健派反乱勢力」が存在しないことを認めて過激派反乱軍への不法な武器供与をやめるかわりに、米政府はアルカイダと親密な関係にある「定着して名の知られた反乱グループ」を公に支援することを選んだ。米は現在、またTOWミサイルを、同盟国のサウジアラビアを通して、これらの過激派グループに輸送しようとしている。

アルカイダは、米が武器を供与していることで責められている唯一のテロリストグループではない。 今月、ISISに占拠された石油精製所を、イラク軍がビデオ撮影した映像には、米がイスラム国戦闘員にパラシュート落下で届けた木箱いっぱいに詰められた食物や武器が映されている。2014年にはまた、米の、シリアのコバネにいるISISへの供給投下物の映像がインターネット上に掲載された。

たった数日前、米は50トンの弾薬をシリアのハサカ地方に空中投下した。この地方は部分的にISISが占領運営している。殆どのISISが使用する武器は米国製である。今年1月に、イラクの国会議員、マジッド・アル=グラウィが、空中投下によって米がISISに武器を供給していることを公的に非難した。

イラクは対テロリズムの実戦において、米よりロシアをより信頼している

イラク政府は、ISISとの戦いで、米が実質的な関与をしていないことに対して疑いを深めている。その一方、ロシアのISIS爆撃がとても効果的だったことから、イラク政府はロシアに、対ISIS戦で米国よりも大きな役割を担うことを要請した。ロシア側は、イラク政府の許可の下に、シリアと同時にイラクでもISISへの爆撃を開始することを示唆した。

ロシアは米国とは違い、イラクとシリアのそれぞれの正当な政府の許可を得て両国に侵入したことから、国際法は破ってはいない。これらの介入によって、ロシアは米国の対ISIS戦がはったりであり、イラク政府に米国が真にISISと戦っているのだと納得させるには、より多くをなさざるをえない状況に陥れた。

米国は、この地域の多くの国が、ロシアの航空機が領空を飛ぶことを禁止するよう圧力をかけてきたが、もしロシアがイラク領空を飛行できれば、より簡単にシリアの領空に横切って入り、シリア政府に補給物資を提供することができる。それだけでなく、もしイラクがロシアに介入を要請すれば、米国が2003年以来の長期にわたる占領で得たイラクでの影響力が弱まるシナリオとなる。

米国は窮地に追い込まれ、それによって自国とその同盟国らが、テロリズムに対する真の挑戦者ではなく、その源であることを暴露した。テロリズムは常に米国がロシアの影響力を分解しようとするときに用いられる手段であった。皮肉なことに、過去10年の間に、実際に対テロ戦を行っているのだという神話を恒久化させることにもなった。しかし、同盟の国々が、このゲームに疲れを深めている今、米国はいつまでこの二枚舌を操ることができるのだろうか。全てのトランプカードが崩れ落ちてしまうまでに。

マラム・ススリ(Maram Susli) は「シリアン・ガール」としても知られており、シリアと広範な地政学のトピックを扱う活動家ジャーナリスト、社会評論家である。オンライン・マガジンのニュー・イースタン・アウトルックに多くの記事を掲載している。この記事は最初に、http://journal-neo.org/2015/10/20/why-russia-is-serious-about-fighting-terrorism-and-the-us-isn-t/ に掲載された。